サトミ  見舞い

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 エレベーターの扉が閉まり、朋代さんの姿が見えなくなったので再びミクちゃんの個室に向かった。  眠っているミクちゃんの傍による。 「優しいお婆ちゃんだね」  そう語りかけるが、やはり返事はないし、眠る顔にも変化はないまま。  それでも話し続ける。  この声は聞こえているのかな?それとも夢を見てるのだろうか。  窓から差し込む陽が温かく、優しい時間が流れている。  私は今日買ってきた絵本を開き、囁くように小さな声で読みはじめた。  幼児向け絵本だから文字も少ない。ゆっくり読んだけど読み終えるのにそんなに時間は掛からなかった。  窓から見える空はまだ明るいが、私も長居は出来ない。家事があるから。 「そろそろ帰るけど、又来るね」  そう言って絵本を近くにあった棚の上に置いた。 「じゃあね」  そう言って、見えてる筈はないのに手を振り個室を後にした。
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