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「此処ですよ」
『刑務所』の文字がハッキリ門にあるから、言わなくても解るだろうけど無言のままは気まずくて一応言った。
「はい…………。此処に……アヤサが居るのね」
刑務所を眺め、悲愴な表情で呟く朋代さん。後半は思わず出た独り言だろうから、返事はしなかった。
「あっ、ごめんなさいね、ボンヤリとしてしまって……行きましょう。アヤサに説教しなきゃ」
あわてて笑顔を取り繕ってるけど強がりが痛々しい。朋代さんはドアを開け車から降りるが、車内に残る私を見て不思議そうな表情に変わった。
「あの……?」
「私は残ります。後で行きますので先ずは二人で面会してください」
やっと叶った親子の面会を邪魔なんかしたくない。だから私は、暫くは車内に残る事にした。
何度も礼を言った後、刑務所に向かう朋代さんの背中を見送った。その姿が見えなくなると、ドアを開けて車外に出た。
晴れなのは有り難いけど、クーラーを切った車内に居るには暑すぎる。
両腕を高く空に向け、運転で疲れた身体を伸ばした。
肌に当たる微かな風が心地好い。
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