アヤサ  母親

4/9
前へ
/1109ページ
次へ
 暫く動けなくて呆然と立ち尽くしてしまった。 「……座ったら?」  優しく問い掛けるように、お母さんが言った。  その声で、自分が立ちっぱなしであった事に気づき、椅子を引いて座った。  カシャンと椅子の音が響いた。  又俯いて前を向けない。  だって、どんな顔をしたらいいの?  ただ、膝の上に乗せた自分の組んだ両手を見詰めた。  ……このままじゃダメ。  何か喋らなきゃ。  でも何から話せばいい?  刑務所生活の事?  それより先に謝らなくては。  ミクの事も尋ねるべき?  あれこれ考えては結局何も話せず無情に時は過ぎるばかり。  このままだと無言のまま面会時間が終わってしまう。  折角来てくれたのに話さないまま終わるなんて嫌だし。  せめて、一言謝らなきゃ。  私は前を向き、母親を見た。目が合い、お母さんが少し驚いた顔になる。 「ごめんなさい」 「ごめんね、アヤサ」  声が重なった。  再び目を合わせ、お互いに目を見開く。……お母さん、又驚いた顔をしてるけど、私も同じ様な表情をしているだろう。  何故、お母さんが謝るの?
/1109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25567人が本棚に入れています
本棚に追加