アヤサ  母親

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「どうして……?」  私は疑問をそのままぶつけた。 「何が?」  お母さんは少し首を傾げ、キョトンとした顔で言う。 「どうしてお母さんが謝るのさ!どうして……」  言っている内に涙ぐむ。  昔は涙なんて恥ずかしくて親にだって滅多に見せなかったのに、今は流れる涙も拭わない。  最近泣いてばかりだったから、涙を見せることに抵抗が無くなったのかなぁ。 「今まで……ずっと来れなくてごめんね。  そして……アヤサ、アンタ、辛かったのに気づいてあげられなくて……ごめんね」  そう、お母さんが泣きそうな声で言った。 『気づいてあげれなくて』?  違う……。  ……違うよお母さん。  私が黙っていたから悪いんだ。  滅多に会わない上、黙っていたんだから、私の夫婦生活が辛かった事も、虐待も、気付けないよね。  それに……相談もせず、親には仲良し家族を偽ったから最悪な結果になってしまったんだ。   お母さんは、「気付けなかった」と自分を責めてしまった。  悪いのは私だよ。  相談したら良かったんだ。  何処から間違えたんだろうね、私。  タクと付き合い始めたのが間違えかな?  暴力が始まった時、別れれば良かった。  「別れるな」と脅されたなら相談すれば良かった。  私、馬鹿じゃん。  タクの暴力を知りながら、更なる暴力を恐れるが為にいいなりになり、妊娠して、更なる悲劇を知りながら、その場凌ぎで結婚してしまった自分。  タクの暴力に脅え、肉体も精神も疲れきって、ただ、タクの機嫌を損なわない様にするのが精一杯だったあの頃。  地獄を予知出来ながら安易に結婚なんかしてしまった過ち。  どうして相談しなったんだろう。  今となってはそう思うけど、あの頃はタクへの恐怖でまともな思考が出来なかった。  相談したら良かったのに親や友人に心配させたくないから、迷惑掛けたくないから、格好悪いからって思って黙っていた。  そして虐待して、事件を起こして……。  相談すれば良かったんだよね。  今更悔やんでも仕方がない。  でも悔しくて仕方がない。  『心配させたくない』『迷惑掛けたくないから』なんて思いで相談しなかったから最悪な結果になった。
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