アヤサ  母親

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「いや、私を此処まで送ってくれた人が中々来ないからね……。  後で行くって言ってたんだけどね」  え?  何?送ってくれた人?  刑務所まで連れて来てくれた人?今初めて聞いたよ。  てっきりお母さん一人で来たのだと思っていたし。  ……場所が場所なだけに、他人に気軽に頼んで連れて行ってもらえないわよね。    誰だろう? 「ねぇ、誰が此処まで連れてきてくれたの?  まさかお父さん?来たけど会いたくないとかで面会室(ここ)に来ないんじゃ……」  真っ先に思い付いたのはお父さん。  昔から頑固な所有るし、厳しいから、こんな娘にお父さんは会ってくれないのかも。 「違うよ、ほら、アヤサが前住んでいたマンションで、お隣さんだった人。  ミクのお見舞いに行った時に知り合えたんだけど……ほら、親切で美人な人」 「まさか……サトミさん?」 「そう!サトミさん」  目を丸くして答える母親は、クイズの正解がやっと解った子供みたい。  そして……。それを聞いた私は、溜め息を思わず吐くと同時に、小さく笑ってしまった。  ほくそ笑むって今の私の表情かしら?  サトミさん……親切ってか、お節介だと思いながらも沢山お世話になった人。  まさかこんな形で又お世話になるとは……。  なんで私、こんなにもサトミさんに世話になりっぱなしなの?  サトミさんに対して、感謝はするけど、あまりにも私と違いすぎて劣等感をあぶり出しにされる。 「あぁ、あの人お節介だから」  負の感情からつい毒づく。 「アンタ……」  母の眉間に深い皺。あぁ、呆れられちゃった。軽く怒られたかしら? 「何でサトミさんなの?お父さんに連れて来てもらえば良かったしょ?  まさか……やっぱりお父さんは勘当とか言って会いに来てくれないとか?」  お父さんにも来てほしいなんて甘ったれた事、言葉では言えない。  だから、間接的に、お父さんは来てくれないのか聞いてみた。  お父さんにも……直接、謝りたいから。
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