アヤサ  母親

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 規則正しい一日を終え、消灯時間。薄っぺらい布団に入り寝転がる。  睡魔は訪れず、目は闇に慣れ次第に隣で寝る千鶴の背中がボンヤリと見えてきた。  今両親が色々と大変なんだと知った。経済的にも精神的にも。  暴力が無いだけマシじゃんなんて少しでも思ってしまった私は酷いのだろうか?  家族が大変な時に……。  ……家族。  タクとは離婚をして、もう他人になったけどミクは娘。  でも、こんな私でも母親と名乗れるのだろうか。  何故、私なんかが事実上のだけど母親になれて、子供を望むサトミさんは子供を授かれないの?  カッと怒りにも似た感情が沸き立ち、薄い布団をギュッと握った。  サトミさんに対しては、今日も又劣等感を感じてしまった。  サトミさんと私、比べる事事態が愚かしい歴然な差がある。  何故サトミさんはこんなに親切にするの?  不妊症なサトミさんは、明らかに自分より不幸な私に親切にする事で、見下して、優越感に浸るの?  ……あぁ、嫌だ。  こんな事考える自分が嫌で仕方が無い。  高ぶる負の感情を落ち着かせたく、寝返りを打った。  目の前が壁になる。  部屋には鼾が響き、五月蝿い。  耳障りな鼾を聞いていると再び負の感情に襲われそうで、頭まで布団を被った。  ……黴のような、嫌な臭い。この布団臭いよ。  寝る時は我慢出来るが、中に潜り込むとキツイかも。  結局布団から顔を出し、深い溜め息を吐いた。  気分を落ち着かせたく、目を閉じ、胸の上で手を組んだ。祈りを捧げる形。  神様。  居るかはわからない。  てか、信じていなかった。  だって私なんかが妊娠して子を産んだのに、子供を望むサトミさんは不妊症だから。  他にも理不尽な事が多すぎる世の中。  元々無宗教だし、神を信じられなかった。  その癖、今、祈ってしまう。  『ミクを助けて』と。  都合良すぎ。  困った時の神頼み。  そんなのでご利益があるなんて思えないけど祈ってしまう。  代わりに私の魂捧げていいから、ミクを助けよ。  きったない魂だろうけどさ。
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