アヤサ  ミクよ

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「お前、前から神様を信じ毎日お祈りしてたのか?」  せせら笑い言う千鶴。私はただ首を横に振る。 「だよなぁ。だが、困った時だけ神を信じて祈ったりする。今まで全く神に祈りを捧げなかった奴に限ってな。調子良すぎなんだよ。  私が神ならそんなお調子者の願なんてわざと叶えさせないな」  千鶴が神?そりゃ世界の絶望だ……と思ったが口に出さないでおく。 「でも……今の私にはミクの為に祈る事しか出来ない……。だから、祈るしかない……」 「その考えが甘ったれてんだよ!自分で自分のガキ殺しかけて、今になって『助けて下さい』?はぁ?祈る事で罪滅ぼしか?それともアレか。このままガキに死なれては殺人になるが、助かれば殺人未遂で罪は軽くなる。だから罪が軽くなる為祈ってるのか?」  唾を飛ばしながら捲くし立てる千鶴。情緒不安定な千鶴はたまにこんな風に怒ったりする。看守が来ない為か大声ではないが睨む目が怒りを伝える。  私はその怒りを受け止めながら静かに言う。 「違う……。ミクに助かってほしいから。自分は死刑になってもいいがミクだけは……助かってほしい。  刑務所(ここ)だと、ミクに会うことも、話し掛ける事も、何も出来ない。だから……此処で罪を償いながら、せめて、ミクの回復を祈る事を……祈る事をしていました」  すると千鶴は眉間の皴はそのままで、睨んでいた目を細め、諭す様に言ってきた。 「ガキの為に祈ったと言うのかい。ガキが回復する様に。  じゃあ、ガキが回復した後の事は考えてるのか?ただ回復だけしても、お前が何も変わらなきゃ又虐待を繰り返すだろうな。そんな事だとこのまま死んだ方がガキにとっては幸せかもな」 「死んだ方が……幸せ?」 「このまま死なれちゃお前にとって後味悪いから、生きてほしいと願ってる。違うか?ただ祈るだけのお前を見てるとそう思うが。  違うなら、ガキへの償い方やガキが幸せになれる方法でも考えろ!自分の過ちを他人任せにしないでな!」  他人任せじゃなく神任せでしょって細かい事を気にしたが、そんなのより千鶴の言葉を受け止めた。  だって、私が祈るのは、ただ回復してほしいからだけではない。  そうだ。  今まで辛い思いをさせた分、これからはミクに幸せになってほしい。  奪ってしまった笑顔を取り戻させたい。  その為に、私は、何をすればいい?  考えなきゃ……。  考えなきゃ……。
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