アヤサ  現実

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 作業時間を終え、休憩時間。私は何時もの様に、ただぼんやり、壁の隅に座っていた。  運動時間に連絡を受けて、それからの記憶が曖昧だ。魂が抜けたような状態で、体に染み付いた何時ものスケジュールをこなしたんだろう。  誰かがが私の前に現れたのが見えた。俯いて足元しか見えなかったので、顔を上げた。  そこには千鶴がいた。  ただ、いつもの仏頂面ではなく、嬉々とした表情だ。 「作業の時聞いたんだが、アンタの娘、目を覚ましたんだって!?」  刑務所(ここ)では噂などすぐ広がる。プライバシーなんて皆無に等しい。  千鶴の声を聞いて、他の受刑者もこちらを向き、集まってきた。  私はただ、コクリと頷いた。
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