アヤサ  現実

3/8
前へ
/1109ページ
次へ
 私の顔を見て、嬉々としていた千鶴の表情が次第に曇った。 「アンタ、娘が助かったんだろ?なんでそんな腑抜けた面してんだ?」  確かに、千鶴が言う通りだ。  私はミクの回復を心から願った。……ミクの事ばかり考えていた。  祈りが届いたと言うべきか……ミクが意識を取り戻したと連絡をもらった。詳しい容態はまだ解らないが、眠ったままのミクが目を覚ましたのだ。  死の危機から逃れられたと解釈していいのかは解らない。だけど、良い方に解釈した。  嬉しい。  そりゃ、嬉しいに決まってる……。  この手で、殺めかけた娘が、助かったのだから……。  そう、この両手で私はミクを……。  目の前に両手を出し、それを見つめた。随分と荒れた、皹(あかぎれ)だらけの手。  罪に汚れた両手。  愛情ではなく暴力を与えた罪深き両手。  この手を切断したい衝動に駆られた。
/1109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25567人が本棚に入れています
本棚に追加