アヤサ  現実

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 皆が睨む。その視線を避けるように俯いた。薄汚れた床の上に、ささくれだらけの指で握った拳とボロボロ靴下の足先、肩から下りたボサボサの枝毛だらけの髪が見える。なんてみすぼらしい姿。  そして、身も心もみすぼらしい私に容赦無く今も向けられる非難の視線。  虐待をして、償いすら出来ない私を皆が責める。当然の事だ。  私は助かったミクに、今度こそ幸せになってほしい。  それが一番の願い。  だから、再び一緒に暮らすなんて出来ない。  普通の親子みたいに、些細な事で一緒に笑ったり、一緒にご飯を食べて「美味しい」と喜んだり、手を繋いで歩いたり、一緒に出掛けたり、一緒の布団で寝たり……。  些細な幸せ?ううん、これは、凄く幸せな事。  信頼できる、愛し合える親子だから出来る幸せな事。  私はミクの中の、私の『母親』の像を壊した。  ミクの中に居る私は、多分、憎い、恐ろしい『犯罪者』だろう。  だからもう、私は『一緒』が出来ない。  私はタクにもう会いたくない。謝られても、嫌だ。謝罪の言葉すら聞きたくない。だって会いたくないし声も聞きたくないから。  だから分かる。ミクが私に望んでいるだろう事が。『二度と目の前に現れないで欲しい』  私は償いすら許されない。  だからって何もしない訳ではない。  全力で、陰で支えたい。  そう、陰の存在になる。  陰でそっと、ミクの幸せを祈り、陰で支える。  この手で、ミクに触れてはいけない。  この汚れた手であの子に触れない。  堪えてた涙が荒れた手に落ちた。  でもこの涙は罪を浄化なんてしてくれない。
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