サトミ  愛しい

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「そうだ、この事知らせなきゃ!私、動転してまだ誰にも知らせてないのよね。……お父さんはお見舞いの時に知らせるとして……」  朋代さんはバッグに涙を拭ったハンカチを仕舞うと、財布を取り出し中からカードを取り出した。 「これ、まだ使えるかしら?」  そう言って手渡された、愛らしい犬の写真のテレホンカード……何だか久しぶりにテレカを見た気がする。えっと……10の近くにパンチ穴があるが0の所には無いわよね。 「残り度数は少ないと思いますがまだ使えますよ」 「そう。ありがとう。……ちょっと電話してくるわね。公衆電話は……あっちね」  天井にある案内板を見て公衆電話の矢印の方向へ行った朋代さんの背中を見つめ、一人になった事で再びミクちゃんの姿を思い浮かべた。  目を覚ましてくれたんだ。  喜びで身体がムズムズした。  良かった。本当に良かった。  次から次と、喜びの感情の波が体内を駆け巡る――そんな感じがして無意味に立ち上がってしまった。
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