サトミ  愛しい

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 暫くして朋代さんがこっちに向かってきた。疲れてるような、悲しそうな表情をして、私の隣に再び座った。  手には手帳が握られていた。  そっか、手帳のアドレスページを見ながら電話したんだ。  私は携帯電話を持ち始めてから手帳を使わなくなったっけ……。 「タクさんって分かるわよね?あの、アヤサの元夫の……」 「え?あ、はい」  朋代さんにそう問われ、タクさんの事は知っているから反射的に「はい」と返事したが……元夫ということは、離婚したんだ……。 そりゃ、仕方ないよね……。  なんて思ってると、朋代さんが話し続けた。 「今ね、そこに電話してきたの。  あの……知ってるかしら?アヤサは、その……離婚したのよ。  それは仕方が無い事だと思うわ。  でも……親権を、向こうは放棄したの」 「えっ!?」  思わず声を出しちゃった。  だって、虐待したのは、せの……アヤサさんだから、その事で離婚したのなら親権はタクさんになると思ったから……。 「やはり驚くわよね。まぁ、私としては、親権が向こうになったらもうミクと会わせてもらえないかもしれなかったから、喜ぶべきか複雑だわ。  それで、ミクの親はアヤサになっているけど、アヤサはホラ、刑務所でしょ……。  だから、ミクに何かあった時の連絡先は私の家になってたのよ。  今日、病院から連絡貰ったけど、向こう……タクさんの方には、連絡は行かないの。だから、ミクが目を覚ました事を早く知らせたくて、さっき電話したんだけど……」  そこまて話してくれて、先程見せた悲しげな表情になり俯いた。 「出たのは向こうのお父さん……ミクのお爺ちゃんなんだけどね……『もう縁を切った子供がどうなろうと関係無い』って言われたの……」  えぇ!?  関係無いって!?何、それ?いくら親権がアヤサさんになったからって、血が繋がった大事な孫じゃないの? 「……嘘……信じられない……」  私でさえ、あんなにミクちゃんが意識を取り戻した事がとても嬉しいのに。  悲しいのと同時に、腹立たしい。
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