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「あの……タクさんは何か言わなかったのですか?」
そう問うと、朋代さんは静かに首を横に振った。こっちを向いた朋代さんの頬を、窓からの淡い陽の光が照らす。目元が輝いているのは涙が溢れているからよね。
「向こうはね、一応は血の繋がりのある子だし、入院費、それから養育費は払うって言ってるの。
そりゃ、払ってくれるモノは払ってくれた方がいいんだけど、なんだか悲しくてね。
折角、ミクが目覚めてくれたのに、見舞いに来てくれないし、喜んでもいないみたいだから……」
私も、聞いて悲しくなった。
ミクちゃんは、母親のアヤサさんに虐待されて、父親のタクさんがアヤサさんに暴力を振るうのを見て、タクさんはミクちゃんに無関心で……。
その上、タクさんの父親も無関心なんて……悲しい。
さっきまで身体が疼く程喜んでいたのに、こんなに落ち込んでしまうなんて。感情の波が激しくて何だか疲れた。
「私も、アヤサが辛い時に気付いてあげられなかった様な母親なんだから、何か言える立場では無いのだけどね」
そう言っては自虐的に笑う朋代さん。
「そんな事無いですっ」
朋代さんを見詰め、そう言うと、私の声と真剣な顔に驚いたのか目を丸くした朋代さんだけど、すぐ優しい笑顔になった。
「ありがとう」
「……いえ……」
「あの、サトミさん?」
「はい?」
「貴女はよく見舞いに来てくれてるみたいだけど……。その、もしかして、責任を感じていないかしら?」
笑顔から真剣な顔に変わりそう言われ、私は返事に戸惑った。
だって、確かに私はミクちゃんの虐待に気付きながらも何も出来なかった事を悔やみ、責任を感じているから。
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