サトミ  愛しい

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『はい、小堺です』  電話からから落ち着いた声が聞こえた。朋代さんの声だ。 「あの、今晩は。サトミですが、ただ今お時間宜しいでしょうか?」  電話する事に気を使いすぎたせいか、早口になってしまった。 『ええ、大丈夫よ。それに今、サトミさんに電話しようか考えていたのよ。  ミクの事……でしょ?』  先にミクちゃんの名前が出て、私は「はい」と言いながら頷いた。……電話だから頭を下げても相手には解らないのに。まぁ、身に染み付いた癖のようなものよね。 「あの、ミクちゃんは……検査の結果、どうでしたか?」  挨拶もそこそこに、気になっていた事を尋ねた。そして鼓動が高鳴り出すのを感じる。  無事であってほしいという願いと、もし障害など残ったら……という不安から。  汗ばんできた手で電話を強く握る。 『……まだこれから精密検査があるんだけどね、脳の障害とか心配は無さそうみたいよ。  頭の傷も塞がり、治りかけているしね』  それを聞いた瞬間、ホッとして涙が零れた。  安堵の涙だ。 「……良かった」  泣きそうな声で、呟いた。自然と出てしまった言葉。  鼻を啜り、涙を指で拭って「ありがとうございます、安心しました」言った。 『でも……』  でも?受話器からトーンが下がった朋代さんの声がして、再び胸騒ぎがした。 「……?『でも』?  あの、どうしたんですか?」  少しの間が空き、朋代さんが沈んだ声で、言った。 『ミク、喋らないみたいなの』
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