アヤサ  これから

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 用意されたパイプ椅子に座り、お母さんを見つめた。  身体はコートに包まれているから分からないが、顔は以前より頬が痩せている。  頭髪も前より白髪が増えた気がする。その白髪とコートに細かな水滴が付いている。  これは雨ではなく、降り注いだ雪が溶けた物だ。 「外、寒かった?」  他にも言いたい事が沢山あるのに、一番始めに出た言葉がこれだった。  そんな事聞かなくても分かるのに。 「まあ、冬だしね」 「どうやって此処まで来たの?お父さんは……退院した?」  私のやった事がショックで倒れちゃったんだよね……。 「お父さんはまだ入院中。だからタクシーで来たの」 「お婆ちゃんは?」 「無理言って、米子叔母さんに看てもらってる」  そう言い、落ち込んでいる時に見せる表情を浮かべた。  米子叔母さん。  その名前を聞いた瞬間、思わず私も眉を顰てしまった。  米子叔母さんはお父さんの妹。近くに住んでいるのにお婆ちゃんの事を全くと言っていい程看てくれない。  その癖余計な口出しばかりする。  お婆ちゃんに関して自分は何もしない癖に「旅行に連れて行ってあげな」とか「美味しい物食べさせてあげな」とか。  お母さんはただ耐える。それに付け込み「実の母親じゃないから冷たい」「酷い嫁」と親戚に悪口を言っていると、人伝に聞いた。  父方の他の親戚は遠くに居るから中々頼れず、結果私の両親だけ、今はお母さんだけがお婆ちゃんを介護して苦労している  大嫌いな叔母さん。 「何で米子叔母さんなんかに……」  ムカムカしてきて思わず呟いてしまった。お母さんはそれを聞いて溜息を吐く。 「デイサービスは今日は休みだし……他に頼める人、いないしょ。  お婆ちゃん認知症が進行して大変だから此処に連れては来れないし、かと言って一人にはさせられないし……」 「叔母さん、何か言ってた?」 「そりゃ、散々厭味言われたわよ。『長男の嫁の癖に』とか『いい加減にしか面倒看てくれなくてお母さん可哀相』とか。  それに……」  叔母さんの相変わらずの悪態を聞いて苛立ったが、それよりお母さんが途中で言葉を止めたのが来になった。  ……何となく、想像ついた。 「それに、娘は犯罪者になるし、とか……私の事でも厭味言われたの?」  お母さんは、何も言わず、静かに頷いた。  私は目頭が熱くなり、涙を耐えて唇を噛んだ。
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