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「ミクが退院しても、向こう(タク)の家は頼めないでしょ。
暫く私が面倒看たいけど、ほら、お婆ちゃんが居るから難しいのよ。
最近は認知症の症状も酷くなって、昔の知人に会いに行こうと外出して迷子になった事もあるし、排泄ももうトイレでは出来ないから、オムツになったのよ。
でもオムツが嫌みたいはで外しちゃうのよね」
オムツ……。
ミクはオムツが外せないままだった。
ロクにトイレトレーニングしなかったから、いつもボテボテになったオムツをしていた。
オムツを限界まで使っていた。
何一つ母親らしいことをしてあげなかった。
「だからね……正直、お婆ちゃんで精一杯なのよ。施設はどこも空き待ちだし。
だけど、ショートステイは頼めるのよ」
「ショートステイ?」
「短期入所生活介護。まぁ、一時的にだけど施設で看てもらえるのよ。
今お婆ちゃんは要介護度3だから、6ヶ月の間に21日だけどね」
高齢者社会の問題を実感した。
「デイサービスの間はミクを看てあげられるけど、やっぱり、お婆ちゃんに構いっきりになっちゃうから……。ミクは心のケアが大事なのに、あんまり見てあげられなくなると、辛い思いさせちゃうでしょ?」
「……」
「だから、親戚の人にも頼もうかと思うの。
康夫に頼もうかと思うんだけど……」
康夫叔父さんはお母さんの弟で、とても優しい。お正月などに会った時は可愛がってもらい、お年玉も親戚の中で一番多くくれたっけ。
……お母さん、ミクの事でこんなに考えてくれたんだ……。
だから、言いにくい。だけど言わなきゃならない事を、ゴクリと唾を飲み込んだ後、重い口を開いて言った。
「私……ミクを養子に出す」
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