アヤサ  これから

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 ……前にも、今みたいに部屋の隅で踞(うずくま)っている時に声を掛けられた事があったなぁ。  なんて思い出しながら顔を上げた。  前に居るのは絵里子さんだ。背後には私を睨みつける千鶴も居る。  絵里子さんは目が合うと、無言で座り込んだ。目の高さが同じになったので、見上げていた頭を少し下げた。  相手の目を見るのは苦手だから、何となく絵里子さんの手元を見る。私と同じく荒れた手。 「……前に、さ。まだ、貴女の子供が意識を戻す前……。貴女、何時も祈っていたよね。  そして……言ったよね。償う事も考えるって……。  なのにどうして、償わないのさ」 「……償わない……?」 「そうでしょ?貴女、刑務所を出ても、子供とは暮らさないんでしょ?」  私は、ただ頷いた。 「どうして?そんなに子供が憎いの?嫌いなの?  まだ反省してないの?」  責めるような口調で言い、私の腕を掴み、引っ張る絵里子さん。爪が食い込み、痛い。  でもこれは、私に痛みを与えるために故意にやってるのとは違うと思う。  感情的になり無意識に掴んでいるのだろう。  だって絵里子さんの顔は悪意に満ちた表情ではなく……面会に来てくれたお母さんが見せた表情に似てて、悲しげで、説得させようと必死な顔。  私は絵里子さんの手を振り払わず、痛みに耐えたまま、問う。 「貴女は……絵里子さんは、刑務所(ここ)を出たら、又自分の子と暮らすのですよね?」
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