サトミ  私に出来ること

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 私はミクちゃんの隣に行くと、しゃがみ込んだ。これで目線がミクちゃんと近くなる。ミクちゃんの前に絵本を出す。一冊の本を二人で読むのだから、当然顔が近くなる。小さな肩に私の肩が触れた。  感じた温もりが、嬉しい。  手を伸ばして絵本を開く。これでミクちゃんにも絵本が見えるわよね。  ゆっくりとゆっくりと声を出し、時々挿絵を指差して絵本を読んだ。  優しい声を意識して読み、チラッとミクちゃんの顔を覗く。  顔はやはり無表情なままだが、ちゃんと絵本をみてくれている。  よかった。この本に興味を持ってくれて。  絵本がもう少しで読み終わりそうになった時、看護師さんが入ってきた。  読むのを止めて看護師さんに挨拶しようか一瞬悩んだが、とりあえず目が合った時に頭を下げて絵本を読みつづけた。 「良かったわね、絵本読んでもらって」  看護師さんが微笑みながら近付き、ミクちゃんに言った。  ミクちゃんは絵本から看護師さんに視線を移した。  やはり、感情が読み取れない顔をしたままで。
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