サトミ  私に出来ること

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「ミクちゃん、私夜ご飯の準備とかあるからそろそろ帰るね」   ミクちゃんを見つめて、そっと言った。  私を見つめる目が、一瞬悲しげに見えた。  何も言葉を返さない代わりに、ただ、私をじっと見るミクちゃん。  なんだか、これから帰るのが辛くなる。 「又……会いに来ても、いいかな?」  そう尋ねると、コクンと小さく頷いてくれた。  それは、来ても良いというミクちゃんの気持ちを表した動作。  嬉しくて、思わず私はミクちゃんを抱きしめてしまった。  手の中に収まる小さな肩。  しかしすぐ、衝動的にしてしまったこの行動を後悔した。  私はこれから帰り、ミクちゃんは一人になってしまうのに、こんな事をしたら余計に寂しくさせちゃうかもって……。  私はすぐ肩を離し、謝った。 「ごめんね急に抱きしめちゃって。  ……じゃあ、又来るからね」 「……」 「バイバイ」  そう言って手を振るが、ミクちゃんは手を振りはしなかった。  ミクちゃん位の年の子なら、こんな時「行かないで」って泣いたりするんだよね。寂しいよね。  ただ、私を見つめる視線を背中に感じながら、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。  ……又、来るからね。  病院を出て車に乗ると、何故か涙が零れた。  ミクちゃんは、今、寂しくないかな?  看護師さんも様子を伺いに行ったりするから大丈夫よね?  流れた涙を拭った。ミクちゃんが今何を思っているか……寂しくて泣いてないか心配で出た涙、かな?  今度行く時は、色々話が出来るように、ちゃんと何を話すか考えよう。
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