アヤサ  新年

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 俯いて、汚い足先と床だけを見て面会室に入った。  そして、備えてあるパイプ椅子にそっと座る。  私は俯いたままで、まだ目の前にいるお母さんの顔が見れない。  ……顔を合わせられない。 「……アヤサ」  座ったまま黙っている私に、静かに声を掛けてくれた。  その声は怒りは感じられず、心配してくれてるような優しくも悲しげな声。  やっと、顔を上げて前を見た。  アクリル板越しの母親は、毎年冬に着ているコートに身を包んでいる。  あ、髪が前より伸びている。  それが母の多忙を知らせた。  お母さんは行きつけの美容室で定期的に髪を切ってもらっていた。だからあまり髪型の変化は見られなかった。  今は美容室に行く時間も無いのかもしれない。いや、私の事件のせいで、顔見知りの美容室に行きづらくなったのかも。  ……だから髪が伸びたままなんだろう。  何て言ったらいいか、言葉が浮かばず黙ったままになってしまう。  そして合わせる顔が無くて又俯いた。
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