サトミ  お見舞い

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 エレベーターを降り、逸る気持ちを抑えながら個室に向かう。  個室前に着く。開いたままの出入口から見える室内は人影が無く、静か。  それでも「こんにちは、失礼します」と言い入った。  進み、ベッドの横まで歩き足を止める。  ミクちゃんは、ベッドで眠っていた。  胸まで掛けられた布団が寝息と同じリズムで微かに動く。 「寝てたんだ……」  起こさないように小さく呟いた。  可愛らしい寝顔。  つい、ジッと見てしまうと、目元に涙の跡があるのに気付いた。……泣いたんだ。  何を思って泣いたんだろう?  ズキリと胸が痛んだ。  私は、バッグの奥からクッキーを取り出した。  音で起こさないように、そっと。  これ、どうしよう。  枕元に置いて帰ろうかな?また今度来ればいいし……。  いや、『また今度』が来る前にミクちゃんが退院するかな?それはめでたいし嬉しい事だけど……。  それより、誰が置いていったか解らないクッキーなんて、怪しがられて処分されないかな?  なんて考えてたらクッキー置いて帰る事が出来ず、ただ寝てるミクちゃんの傍らで立っていた。
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