サトミ  お見舞い

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 朋代さんは病室の隅にある折り畳み式の椅子を二つ持ってきて、私に座る様に言ってくれた。  お礼を言い、私は用意してもらった椅子に腰掛ける。  左隣りに朋代さんが座る。目の前には眠ったままのミクちゃん。 「今日、此処に来る前にね、アヤサの面会に行ったのよ」  ミクちゃんを起こさない様に、小さな声で話す朋代さん。  困った様な顔になり、溜息を吐く。  アヤサさんは、前にミクちゃんを養子に出すと言ってたのよね。  あれからどうなったのか、これからどうするのか、凄く気掛かりだった。  私は黙って話を聞く。  朋代さんは小さな……弱々しい声で話を続ける。 「アヤサは……アヤサの考えは前と変わらないままで、ミクとは暮らせない、養子に出すという考えだったの。  私はね、養子には反対したの。でもね、これがミクの為だとアヤサは言う。  だから……養子にするかどうかは、ミクにも聞くべきだと言ったの」 「ミク……ちゃんに?」 「そう……。親が勝手に決めるのではなく、ちゃんと子供の意見も聞くべきだって……。  ミクはアヤサと暮らすのを望んでいるかもしれない。なのに勝手に、ミクに聞かずに養子に出すべきではないって……」 「…………」  私は何も言えないでいた。 「私はね、孫を救えなかった、娘が虐待しているのを気付けなかった。何も出来なかった。そのせいでアヤサにも、ミクにも辛い思いをさせちゃった。  だから今からでも救いたいの。私の我が儘なんだけど、これからもミクを……いや、これからはミクをちゃんと見守りたいの。  だから養子には出して欲しくない。私の我が儘な思い。  アヤサは、ミクの幸せの為に離れることを決めたのに、それをさせたくないっていうのはエゴよね……」  そう、力無く言うと双眸に溢れた涙を拭った。
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