サトミ  お見舞い

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 ミクちゃんは、喋らないまま。頷きも、首を横に振ったりもしない。  ただ、表情はさっきよりも悲しそうな顔になった。 「……ミク、よく考えて、正直に答えてね。誰も怒ったりしないから。  ……ママと、暮らしたい?」  優しく、優しく宥めるように語る朋代さん。  しかし、ミクちゃんは無反応のまま。  静かになった部屋で空気が張り詰める。  ミクちゃんの答えを緊張して待つ。  しかし、ミクちゃんは答えを出さないまま。  朋代さんが、ふっと微笑を浮かべ、ミクちゃんの頭を撫でた。 「急に、こんな事決められないわよね……。  ごめんね」  そして私の方を向いて頭を下げる。 「付き合わせて、引き止めたりしてごめんなさい。もう遅い時間になってしまったわね」  言われて時計を見たら、四時半を過ぎていた。  ……予定してたお見舞い終了時間はオーバーしてる。  窓を見たらもう暗くなって外灯や車のライトが目に付く。  どうしよ……買い物して帰ったらトモヤより帰るのが遅くなるかも。  その思いが表情に出てしまったのか、朋代さんが私を見て又謝った。  私は首を横に振り「気にしないで下さい」と言った。  でも、そろそろ帰らなきゃ……。   「あの、そろそろ失礼します。ミクちゃん、また今度ね」  そう行って出ようとすると、朋代さんが引き留めた。 「ミク、サトミさんが帰るから、玄関まで見送るわね」 「いえ、そんな悪いですし」 「いいから、じゃあミク、また戻るからちょっと待っててね」  朋代さんがそういうので、私はミクちゃんに「バイバイ」と言い手を振って、朋代さんと個室を出た。
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