サトミ  お見舞い

15/27
前へ
/1109ページ
次へ
 扉が閉まる。二人きりじゃなくなり、私達は会話を止めた。  重い内容の話しだし、そうでなくても他人が居るエレベーター内では会話しずらいのよね。  でも、幼い子はそうは思わないみたい。  子供が「お腹空いたよぉ」と、母親だろう若い女性に甘える。繋いでいる手を激しく揺らしている。  女性は「だめでしょ!」と小声で子供を叱る。  ああ、なんて素敵なんだろう。  私はそんな親子を見て微笑ましくも、羨ましくも思う。  そして、ミクちゃんにもこんな親子愛を、幸せを感じてほしいと思った。   エレベーターが一階に着いた。  私達は歩き出す。 「いいわよねぇ、ああいう親子」  前を、先程の親子が歩いている。  手を繋ぎ、微笑んで、会話して。  朋代さんもエレベーターの中で同じ様な事思ったのかしら? 「そうですね」 「ミクにもね……あんな幸せを感じてほしいの。  傷付いて、言葉まで……声まで失ってしまったあの子に、あのような……温かな親の愛情を感じてほしいの」  そう、辛そうに語る。 「でも……もし、ミクがアヤサと暮らす事を拒んだら……それだけ、アヤサにより傷付いたって事よね?  そんなミクを、アヤサの親である私達が面倒見て、ミクを幸せに出来るか、不安なのよ。  いっそ、アヤサと全く関係無い人が、親になって、ミクを大切に育ててくれたら、その方がミクにとって幸せなのかも……。  親子って、血の繋がりだけが大事じゃないでしょ?  それより……愛情が、大事でしょ?」  そう話しているうちに、玄関まで着いた。
/1109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25567人が本棚に入れています
本棚に追加