プロローグ

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辺りは、発生している濃霧のせいか、まだ午後5時というのに異様に暗い。まるで、真夜中見たいな暗さだった。 「ねえ…ホントに行くの、よっちゃん」 と、震える声で中富友春は訊いた。“よっちゃん”こと長谷洋一は、「大丈夫だよ」と強気の答えを返した。 地面は石が敷いてあり、湿気が多いせいか苔が異様に多い。その為足許が悪く、油断していると足を滑らせてしまいそうだった。 京都府嵐山郊外にある緩やかな坂道を登っていくと、その上には《桜館》と呼ばれている屋敷がある。 その名のとおり、春には桜が美しく咲き誇り、花見の秘密スポットとして知られている。が、春が終わり夏になると辺りの景色は一変し、昼間でも人通りが少なくなる。一応農道が近くに引かれているが、あまり利用する人は少ない。
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