188人が本棚に入れています
本棚に追加
元々、《桜館》は明治時代の有名な資産家の別荘だったらしいが、今は古びた屋敷に過ぎない。
そんな《桜館》に「肝だめしに行こう」と言い出したのは、いつものようによっちゃんだった。
よっちゃんによれば、ずっと前にここで殺人事件が起き、その幽霊が毎晩屋敷内を徘徊しているのだと言う。
「ねえ、ホントに大丈夫なの?」
と、“さっちゃん”こと林幸子が不安そうな声で訊いた。
「大丈夫だって。幽霊なんていやしないよ」
笑いを含みながら、よっちゃんが答える。
よっちゃんも自分もそうだが、いくら自分が怖くてもさっちゃんの目の前で“怖い”とは口が裂けても言えなかった。さっちゃんは、この二人にとってアイドル的な存在だった。学校(言い忘れていたが、皆小学校4年生)では勉強ではいつもトップクラスで、男子にも人気がある。そんなさっちゃんに“怖い”とは言えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!