第1章 桜館

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8人の少年少女が深い濃霧が漂う緩やかな坂道を登っていた。 4月14日、午後5時20分。元E高校ミステリー研究部部員の川本晋介(かわもとしんすけ)の腕時計の針とカレンダーは、そう示していた。 もう、何分歩いただろうか。皆の息は、はあはあと荒い。 地面には石が敷き詰められていて、綺麗にその石が並んでいた。また左右には桜並木が続いているはずだが、今は霧と暗闇のせいで美しい桜の花を見ることはできなかった。 元々、川本はこの同窓会に乗り気ではなかった。第一、忙しい大学生生活でそんな時間を取る暇はなかったのだ。 しかし、行く場所が《桜館》と聞いたら、直ぐに行く気になった。 川本は桜が大好きである。日本各地の桜の名所には殆んど行ったし、花見は欠かしたことがない。特に好きな桜は薄いピンク色をした“ソメイヨシノ”という品種だった。
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