色の無い雨

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 また今日も雨だ…。 ぼんやりと会社の窓から外を見た。 冬のせいなのか……雨のせいなのか……まだ5時を少し過ぎただけなのに、外は薄暗い。 「柴田さん。これから飲みに行くんだけど、付き合いませんか?」 同僚の堀田が声を掛けてきた。 「いや…いい…」 俺は振り向きもせずに言った。 「だから言ったろ。あの人を誘っても無駄だって……」 「……なんだか柴田さんって暗いって言うかさぁ……」 そんな同僚達の陰口には、もう飽きた…… 俺はコートを着て、鞄を持つとエレベーターに向かう。 「……ちょっと柴田さんが……」 「……柴田さんって……」 女子社員の小声が耳障りだ……。 足早にエレベーターに乗り、会社を出る。 雨は小雨だった……。 構わずに歩き出し、駅前の飲み屋街へと向かう。 いつもの道順で、賑やかな通りを抜け、裏路地に入る。 【BAR COLTLANE】 窓から漏れる明かりを認め、俺はドアを引いた。 カウンターだけの小さなBARに客は、まだ誰もおらず、俺はいつもの席に座った。 「いらっしゃい」 女のバーテンダーは、畳んだタオルを俺の前に静かに置いた。 俺は黙ってコートを脱ぎ、それを椅子に掛けタオルで濡れた頭を拭いた。 もう一人の若いバーテンダーは黙々とグラスを拭いていた。 店内は薄暗く、ダウンライトがカウンターを優しく照らし、ボリュームを落としたJAZZが静かに流れている。 いつもと同じだ……。 女のバーテンダーはロックグラスに氷を入れ、静かにスコッチを注ぐと、グラスをコトリと俺の前に置いた。 それを一口すする。 女バーテンダーはカウンターに、同じグラスを置き、氷を入れ、俺と同じ酒を注ぐ。 そして、俺と同じく一口飲んだ。 まだ若いこの女のバーテンダーは、この店のオーナーだ。 まだ30になるか、ならないかだ…。 俺が煙草に火を着けると、女バーテンは静かに俺の前に灰皿を置いた。 そして、自らも煙草に火を着ける。 煙を深く吸い込み、ゆっくり吐き出すと、煙はダウンライトの明かりと、絡み合うように立ち上っていった…。 俺は、それを眺めるのが好きだった。                               
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