色の無い雨

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 一杯目を飲み干すと、女バーテンは静かにグラスを下げ、二杯目の酒を俺の前に置いた。 女の吸う【BLACK STONE】の甘い香りが心地いい。 「……会社はどう?……」 女バーテン……蛍が聞いた。 「……別に……変わりは無い……」 「昨日も優くん来てたわよ。……あなたが帰った後に。」 「…………。」俺は答えずに酒をあおった。 「……ねえ、恭介……まだ自分を許すつもりは無いの?………あれは……何度も言うけど……あなたのせいじゃない。」 「………おまえまで優作と同じ事を言うのか……」 「……別に…俺は昔のままだ……」 「笑わなくなった……それに……その死んだような瞳は……」 「もういい。……やめてくれ。 好きな酒くらいゆっくり飲ませてくれ。」 蛍は、口をつぐみ「また痩せたわね、恭介……」と言った。 俺は答えずに、また酒を飲んだ。 「ちゃんと食べてる?」 「……おまえも優も本当にお節介だな……」グラスを置き、窓から外を見る。 雨足は強くなっていた。 「お節介に見える?……」 蛍は消え入りそうな声で言うと、グラスを置いた。 外の雨を見ていると、サイレンの音が聞こえてきた。 目を閉じて開くとサイレンの音は消えた。 「食べて」 俺の前に生ハムのサラダの皿が置かれた。 「……すまん、蛍。……俺は……まだ……」 蛍は俺の言葉を遮り「いいのよ。……ただ…あなたが心配なだけ……。優君もね。」 「……あいつは、ただの馬鹿だ。」と俺はサラダを食べた。 その時、背後で、けたたましくドアが開き「ひゃ~濡れた、濡れた。」と店に似つかわしくない声が響いた。 「いらっしゃい」と蛍は声を掛け、カウンターにタオルを置いた。 男は、断りもせずに俺の隣のスツールに座り、タオルでガシガシと頭を拭き「よう、恭介。俺、昨日も来たんだぜ。 まったくおまえは冷たいよな。 あっ、俺ビールね」と早口で言った。 蛍は、ハイネケンの栓を抜くと、その瓶を男……優作の前に置いた。 「………帰る。」と俺は言った。 しかし、蛍は「全部食べてよね。 それから、これは奢り」と、スコッチの入ったグラスを俺の前に置いた。 ………俺は、またスツールに腰掛けた。          
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