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翌朝、目覚めるとまだ雨音がしていた。
……まだ降っているのか……。
俺はカーテンを開けて外を見た。 一面の曇り空だった。
あの日以来、目に映る全ての物の色が消えた………はたして、この降りしきる雨の色は、どんなだっただろうか?
二人では、少し狭いと感じていた部屋が、こんなに広いとは……。
ふと、傍らの観葉植物を見る。
乱暴に引き抜き、鉢を叩き割ると、どうなるだろう?
俺は、どうなるだろうか………。
無理矢理、思考を停止させる為に目を閉じた。
夕方、インターフォンが鳴り、優作の声が聞こえた。
「恭介さ~ん♪ あ・た・し♪」
「………帰れ」
「わー!待て恭介! 悪かった、開けてくれ!」
優作と蛍は、両手にビニール袋を下げ、部屋に入ってきた。
「相変わらず殺風景な部屋だな……」と優作が言う。
「あいつの荷物を片付けたからな……。嫌なら帰れ」
「なにをおっしゃいますか。 ちゃんとテーブルにコンロまで置いて、待ってたくせに♪」
「…………おまえは帰れ。 俺は蛍と食う」
「まぁ、そう言うなよ。 見ろ! シーバスのインペリアル様だ!」と優作は、スコッチを取り出した。
………俺は素直に座った。
それを見ていた蛍は笑い「先に飲んでて。すぐに用意するから」とキッチンに向かった。
優作も、キッチンに行き慣れたように冷蔵庫にビールを入れ始めた。
そして、そのうちの二本を持ってきた。
「やっぱり鍋にはビールだろ♪」と俺に一本渡した。
「恭介、お前、会社の同僚と飲みに行ったりしないの? いつも蛍ちゃんの店に一人だし」
「俺は一人で静かに飲むのが好きなんだ」
「………?!もしかして俺は邪魔?!」
「ああ、邪魔だ」
「そんな訳ないでしょう」と蛍が鍋を持ってきた。
「しかし、お前、そんなんじゃ会社で浮いてんじゃない?」
「……さあな……陰口は、しょっちゅうだ。もう慣れた」
「……やっぱりな……なあ、恭介、お前、女子社員を飲みに誘ったりしたら? お前、顔はいいんだからさ」
「誘ってどうするんだ?」
「どうするって……もちろん仲良くなるんだよ」
「俺には必要無い。黙って食え」
「やれやれ……」優作は、ため息をついて鍋をつつき始めた。
ベランダに出て煙草に火を着ける。 冷たい空気が、ほてった顔を冷やしていく。
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