色の無い雨

5/14
前へ
/92ページ
次へ
 翌朝、目覚めるとまだ雨音がしていた。 ……まだ降っているのか……。 俺はカーテンを開けて外を見た。 一面の曇り空だった。 あの日以来、目に映る全ての物の色が消えた………はたして、この降りしきる雨の色は、どんなだっただろうか? 二人では、少し狭いと感じていた部屋が、こんなに広いとは……。 ふと、傍らの観葉植物を見る。 乱暴に引き抜き、鉢を叩き割ると、どうなるだろう? 俺は、どうなるだろうか………。 無理矢理、思考を停止させる為に目を閉じた。 夕方、インターフォンが鳴り、優作の声が聞こえた。 「恭介さ~ん♪ あ・た・し♪」 「………帰れ」 「わー!待て恭介! 悪かった、開けてくれ!」 優作と蛍は、両手にビニール袋を下げ、部屋に入ってきた。 「相変わらず殺風景な部屋だな……」と優作が言う。 「あいつの荷物を片付けたからな……。嫌なら帰れ」 「なにをおっしゃいますか。 ちゃんとテーブルにコンロまで置いて、待ってたくせに♪」 「…………おまえは帰れ。 俺は蛍と食う」 「まぁ、そう言うなよ。 見ろ! シーバスのインペリアル様だ!」と優作は、スコッチを取り出した。 ………俺は素直に座った。 それを見ていた蛍は笑い「先に飲んでて。すぐに用意するから」とキッチンに向かった。 優作も、キッチンに行き慣れたように冷蔵庫にビールを入れ始めた。 そして、そのうちの二本を持ってきた。 「やっぱり鍋にはビールだろ♪」と俺に一本渡した。 「恭介、お前、会社の同僚と飲みに行ったりしないの? いつも蛍ちゃんの店に一人だし」 「俺は一人で静かに飲むのが好きなんだ」 「………?!もしかして俺は邪魔?!」 「ああ、邪魔だ」 「そんな訳ないでしょう」と蛍が鍋を持ってきた。 「しかし、お前、そんなんじゃ会社で浮いてんじゃない?」 「……さあな……陰口は、しょっちゅうだ。もう慣れた」 「……やっぱりな……なあ、恭介、お前、女子社員を飲みに誘ったりしたら? お前、顔はいいんだからさ」 「誘ってどうするんだ?」 「どうするって……もちろん仲良くなるんだよ」 「俺には必要無い。黙って食え」 「やれやれ……」優作は、ため息をついて鍋をつつき始めた。 ベランダに出て煙草に火を着ける。 冷たい空気が、ほてった顔を冷やしていく。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加