色の無い雨

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 ベランダのドアが開き、蛍が横に来て煙草に火を着ける。 優作は、酔って寝ている。 …………恭介………まるで感情の無い人形のような横顔……。  うつろな瞳は何を映しているんだろう……。 胸を翻弄する、この感情の名前を、私は知っている。  ゴメンね、涼子………せめて……せめて、恭介の側に寄り添う事を許して……。  想いを口にしない代わりに………。 冬の雨は降り続く……。 「また雨か……」俺は会社の窓から外を見て呟いた。 「柴田さん、あの……」 「ん?」見ると一人の女子社員が立っていた。 たしか……井上。新人だ。 「よかったら、これから飲みに行きませんか?」 「……悪い。先約があるんだ」 「そ、それじゃぁ…あの……彼女とかいるんですか?」 「…………いや、いない」 「そぅですか…。それじゃぁ、また今度」そう言って、井上は行ってしまった。 俺は、ため息をつき、コートを着て会社を出た。 冷たい雨が、ほほを濡らす。 いつもの道を歩き、裏路地に入って少し上を見る……【BAR COLTLANE】 この店に通うようになって、どれくらいになるだろうか……。 無意味な事を考えるのを止めて、中に入った。 「いらっしゃい」 今日も、まだ客は無かった。 蛍が、黙ってタオルをカウンターに置く。 俺は、コートを壁際のハンガーに掛け、いつもの席に座りタオルで濡れた頭を拭いた。 蛍は、ボトルをカウンターに置いて、いつものようにグラスに氷を入れて、酒を注ぐ。 その時、店のドアが開いた。 「いらっしゃい」と蛍は微笑んで言った。 その客は、カウンターの一番端に座ったらしい。  気配でわかる。 蛍が、その客にタオルを渡すと「すみません」と女の声がした。 女性客か……ふと横を見て、俺はぎょっとした。 女性客……井上と目が合ったからだ。 しくじった……先約など無い事がわかってしまう………それにしても……俺の後をつけて来たのか? 「あの……私…BARって来た事無くて……」と井上が蛍に言う。 「そう。気楽に好きなものを飲めばいいのよ♪ ちょっと待って、メニューをあげるから」と蛍は言った。              
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