夏:七月七日の出来事

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…そんな事思いながら少し寝てしまったらしい。 『あぁ…何時だ?』 十一時半まだ終電に間に合う。 紫の煙はどうしたろう? 俺はあの笹の下まで行ってみたが奴は居なかった。 フィルターごと消えちまってた。 新しい煙草に火を点けてみたが応答が無かった。 (アイツ何処行ったんだ?)   …突然、上の方から声がした。 『おーい!こっちだよ~!!』 俺は空を仰いだ。月に雲が少し掛かって綺麗だった。 『おーい!オイラだよ。ほらお願いが叶ったんだ。オイラ雲に成ったんだ!!』 『あぁ、願いが叶ったのか。良かったね。』 『有り難う。でもこれで暫くお別れだ。オイラ風に乗って色々な国を渡って来る。ある国では宗教の名のもと殺し合いが起こってるかもしれない。ある国では理由も解らぬまま人を殺せと教えられる少年と想いを伝えられぬまま愛する人の出兵を見送る少女が居るかもしれない。ある国では私腹を肥やす事しか考えない資本家と働いても働いても生活が楽にならず貧困に喘ぐ家族が居るかもしれない。オイラそんな全てを空に映し出す。そして全ての人に良く見える様にしたいんだ。全ての意識が良い方向に向けば現実も少しずつ良い方向に向かうものだから…。』 俺は祈った。全ての悲しみが何時の日か癒される様に。 全ての傷みが何時の日にか癒されます様に…。 それから言った。 『なぁお前に頼みがあるんだけど…。』 『何だい?オイラ、アンタの頼みなら聞くぜ!だってアンタ、オイラに手を貸してくれた。それに長い友達だもんな…。』 『有り難う。頼みって言うのはお前が色々な国に行って人々がどうにもならない悲しみに出会っているのを見かけたらお前のその体から雨を降らせてやって欲しいって事なんだ。全ての汚れ、全ての悲しみを洗い流す様に出来るだけ優しく。悲しみに暮れる人達にとって優しい癒しの雨である様に…。』 『そうしよう。』 雲になった紫の煙は快く言った。 『じゃ俺、そろそろ電車無くなっちまうから。』 そう言って俺は別れを告げた。 『あ!アンタのお願いもきっと叶ってるよ!』 奴は遠くで叫んだ。 『だと良いな。でも叶っても叶わなくてもどっちでも良いんだ。だって信じる事を、夢を信じる事を思い出せたから。』 もう奴は見えなくなるくらい遠く飛んでいっちまった。image=51744179.jpg
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