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俺はセブンスターに火を点けた。
だいぶ酔っ払ったらしい、紫色の煙の向こうに見覚えのある人影が浮かんできた。
心優しい女、一番優しくしてくれた女…。
『久しぶりね』
彼女は言った。
17から23まで一緒に暮らした女。
この人生で誰より深く愛し愛され、誰より深く傷つけ合った女。
その女はあの頃と変わらぬ神秘的な瞳で俺を見つめていた…。
『あぁ、正美か…。久しぶりだね。元気だったか?』(もう、お前の事を思い出す事も無くなって来たよ。)
彼女は目を伏せて言った。
『ねぇ、ようへい。新しい暮らしはどう?慣れて来た?』
『あぁ、だけど張り合いを見つけられないんだ。お前が出て行った時から俺の時計が止まってしまったみたいに…。何か大きな不在感みたいなモノを感じてる。心にポッカリ大きな穴が開いた様だよ。』
『前の会社では出世の為って頑張ってた貴方がね。』
そう、それは君に認めて貰いたい一心からだった。
君は何時ももう少し自分の時間のある仕事にすれば?とかそんなに頑張ったらようへい疲れちゃうよ。とか逆に心配掛けてばかりだったけど…。
俺は異例の速さで店を任されて、だけどあの頃からだったと思う、二人の心が離れ始めたのは…。
だけどね、そんな時でも解って貰えると思ったのは俺の甘えだったのだろうか?
寂しさとか訳の解らぬ気持ちに襲われても、打ちのめされても、何時も何時も思い出して欲しかった。
口づさんで欲しかった。
俺が君に贈った歌の全ては俺の真心だった。
本当さ、魂を削って書いた物なのだから…。
だけど君は別れの言葉を言った。
『私を自由にさせて欲しいの。』
なんて呆気無い別れだったろう。
俺は君のその言葉に完全に打ちのめされた。
何日間泣き明かしたろう。
何ヶ月間君を夢に見たろう?でも、もう…。
『やっと最近、他の誰かを好きになるって事を考え始められる様になった。』
俺は上の空でそう呟いた。
『そう、良かった。時々貴方の事を考える時、それだけが心配だったの。私?大丈夫。幸せよ。』
『お前を…悲しませたりしたら許さないよ。』
『ふふ…』
彼女は微笑んだ。
あぁ、あの頃の笑顔だね。やっぱり君は綺麗だよ…。
『ねえ、ようへい。』
彼女は聞いた。
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