秋:心優しい女のぶる~す

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『一つだけ聞きたいの。あの頃、酷い喧嘩をした後に貴方が言っていた言葉あったでしょ?悲しい瞳しながら…。~こんな事ならお前と出会わなければ良かった。お前を愛さなければ良かったって。私、その度に頭が混乱して訳が解らなくなって、切なくってね、(あぁ私、今、死んじゃっても良いかなぁ)って思ったの。でも今、こうして二人別れて思うの。二人出会った事は間違いだったのかって。ねぇ、どう思う?』 『俺は…。』 言葉に詰まる。あの言葉は愛の切なさ、痛みを抱え切れずに言った俺の弱音だった。 本気じゃなかったんだ。 今、想い返すあの時あぁ言っていれば。あの時あぁしていれば。 自分の打った全ての失敗。そんなものが皆、心の中で群青色に染まり、悲しみの内、眠りに就くんだと悟った。 『俺には解らないよ。只それでも…それでもね、正美。お前と生きたかった。お前と生きて行きたかったんだ。なぁ何時も話していた夕暮れの風景を憶えているかい?西新宿のビル群に沈んで行くその夕日は美しくて、凄く美しくて。だけど同じ位悲しくて切なくなった。あの時の俺の心の中に愛しさや悲しみや慈しみや怒りや、そんな全ての感情が寄せて来て訳も無く涙が溢れた。そして想った。(愛する人と…何時の日か愛する人とこの場所に来て同じ想いを分かち合いたい)と…。』 何時だったか俺達、喧嘩別れして、それでもお互い必要としあっている事に気づいてやり直そうとした時、俺は賭けをした。 そう、あの日俺が辿った道を君に告げずに歩いた。代々木の駅に着いた時、君に訪ねた。 『俺が何時も話していた夕暮れの風景の場所、解った?』って。 危険な賭けだった。もしお前が解らなければやり直さなかったよ。 だけどお前は解ってくれてた。それは俺にとって正に奇跡だった。 …あの日から俺は君と言う神の信者になっていたのかも知れない。 体を一つに重ね、心を一つにしようとして、お前が全てで、お前と生きてきたんだ。 『そうね。ひどいと思ったわ、私を試したって。でも解ったの。あの時の私は貴方の事、何でも解ってた。』 『うん、あの頃のお前はきっと何でも解ってたな…。俺も一つだけ聞いて良いか?"らんまる"の事、そしてその命が消える時の二人の祈りと約束を今もまだ憶えているかい?』 『うん。』 彼女はうつむき言った。 『忘れる訳等無いでしょ?』
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