冬:TONIGHT

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冬:TONIGHT

一人きりの長い冬の夜 俺はGuildのアコースティックギターを取り出しEをトニックとするブルージーなリズムを刻み始めた。 『お前への想いを今夜、誰も聴く者も無く口づさむ。胸打つ虚しいBeat抱え一人きり唄うよ』 EからF#m、F#mからAm6、Am6からまたトニックへとコードを繰り返しながら俺は口づさんだ。 『理由も無い寂しさに仲間と騒ぎ明かした夜、お前、酔いどれ天使みたいに俺に舞い降りた。二人、何時も朝まで騒ぎ明かしたっけな。アルコール、セブンスター、そして音楽に囲まれて…』 ブルージーなリズムに彼女の面影が揺れていた…。   二人の関係は俗に不倫と呼ばれる物だった。 彼女には夫が居た。 初めて彼女を見た時、まだ18、19かと思った。でも実際は俺より一つ年上だった。 初めて彼女を抱いた夜、彼女の中に影を見た。憂いを持った人だと思った。 『なぁ目まぐるしい日々の中、忘れちまったかい?俺と強く抱き合ったあの夜も。』 コードはサビに入りAからE.G#m7.C#m7.A.B7.C.B7へと移りEに戻って来た。 『Tonight.Tonight.お前想い歌ってる。あの日に置き忘れた心の破片拾い集めて…。』 二度目に君を抱いた夜、夫が居る事を打ち明けられた。 『良い人なの。私を自由にさせてくれるし、優しいし、私に一番合う人だとは思うけど…。』 君はセブンスターに火を点けてため息を隠す様に煙をはいた。 生活と言うものの中で少しづつ色褪せて行く愛の色。 君は褪せる事の無い本物の愛を探していたんだろう。何人もの男達に抱かれながら…。 寂しがり屋の君だから、きっと今夜も探しているね? ギターのヘッドに挿したセブンスターは燃えつき、灰は床に散らばっていたけど気にしなかった。 「今夜、一人きりの部屋の中、聞こえてるのは、俺の胸の鼓動とあの夜のミッドナイトブルース。Tonight.Tonight.お前想い唄ってる。聞こえるかい?誰かの優しい腕に抱かれながら…。Tonight.Tonight.お前想い唄ってる。聞こえるかい?誰かの優しい胸に眠りながら…。』
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