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春:ソドムの街から
ネオン街の灯りが夜の帳りに輝きだした。
週末の夜、行くあてもなく俺は二人初めて出会った街をふらついた。
新宿は人混みの中はしゃいでた。
(この街に立ち向かおうと声張り上げて叫び続けたのは一体何時の事だろう…)
俺は時間と云うモノの不思議さについて考えた。
それは消えゆくモノ?
それは積み重なるモノ?
それとも巡りゆくモノ?
流れるモノ?
大きく完全なる円環の姿を持ち今と云う点に向かって進む『時』
遥かな未来とは過去の事。
そう考えると時の全ては始めから終わりまで既に存在していて今も未来も決して変えられないのかもしれない…。
どれもそんな気がしたし違う気がした。
(でも、もし流れるモノならば激流の中傷だらけになりながら昇って行く鮭の様に時間を昇ってお前を失う前に戻りたい)
俺は思ってそんな事考えている自分が可笑しくて笑った。
『あーぁ、又あの頃に逆戻りだな。』
俺は一人ごちた。
…あの頃TVも何も無い部屋で一人ギター抱えてセブンスターくわえてヘタな歌ばかり歌ってた。
話し相手はギターとセブンスターだけだった。
週末になるとこの街で夜が明けるまで歌い続けた
『俺は此処に居る、俺は此処に居る』って。
そしてお前と出会った。
付き合い始める時に俺が云った言葉を覚えているかい?
『決して一人にしないでくれ』
お前まだあどけない少女の笑顔で『もう一人になんかさせない。一生一緒にいようね。』って言ってくれた。
街を歩く恋人達にあの時の二人を重ねても『もうお前は居ないんだ。俺の愛したお前はもう居ないんだ。』って気づくだけだった。
そして悲しみと缶ビールとセブンスターを連れて気狂いじみた街を歩いた。
(俺が今まで愛していたのはあの頃のお前の幻だったのかもしれない。)
五年半と云う時間はお前を変えた。
(貴方が変わならすぎるのよ…貴方が変わらなすぎるの。)
そんな感傷に耽って歩いているとポン引きが寄って来る。
『お兄さん、良い娘が居るよ』
俺はそいつの足元に唾を吐いてやった。
暫く歩いた俺は目を上げ立ち止まった。
いや、立ち止まらずにはいられなかった。
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