夏:七月七日の出来事

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『まぁそんなに怒らないでよ。オイラ、アンタを馬鹿になんてしてないよ。アンタの中に自分を蔑む気持ちが有ったからそう聞こえたんだ。オイラは言葉なんて持ってないんだから…。意識上の少しの擦れ違いが言葉の綾みたいな物を産むんだ。解るだろ?アンタなら。』 そう、今の俺の状況を何時もそんな風に言われてたから紫の煙の意識をそう読んでしまったのかも知れない。 意識同士でこうなのだから言葉なんかもっと解り合えないよね? 想いを上手く伝えられなくて傷付けてしまった人、失してしまった人。 その度に自分の言葉の弱さに塞ぎ込む、その度に君の理解の足りなさに塞ぎ込むんだ!! 『本当の意味で理解してくれてるか?』 『深い所で解ってくれてるのか?』 愛してくれた人にそんな事ばかり聞いてた気がする。 『貴方の言葉の一つ一つが私には重すぎるの…。』 そう言ってその人は去って行ったっけ…。 『ねぇ、それよりオイラ、アンタにお願いがあるんだけど…。』 紫の煙は俺が塞いでいるのを気にしてか話を変えてきてくれた。 『何だい?』 俺は聞いた。 『うん、今日は七夕だろ?オイラの代わりにオイラの願いを短冊に書いて飾って欲しいんだ。”雲に成れます様に”ってオイラとアンタ長い付き合いだろ?オイラアンタにお願いするのは最初で最後だ。だから聞いてよ。』 俺は紫の煙の必死さにその頼みを聞いてやる事にした。 こいつは中二からの付き合いだし,もう十年にもなるもんな…。 そこで俺は席を立ち手頃なコンビニを探した。 ソーイングセットと千代紙、油性のマジックだ。 もし雨が降って濡れてしまってもその願いが消えてしまわない様に…。 『840円になります。』 あまり愛想の無い男の店員が言った。俺は財布から千円札を取り出した。 『160円のお釣です。』 『あぁ結構な出費だな。』 俺は店を出てからセブンスターに火を点け紫の煙にぼやいた。 奴は何も言わずユラユラやってるだけだ。 『クソ!!こういう時は只の煙になりやがって!』 俺は一人怒った。 …でもまぁ仕方無い。頼みを聞いてやると決めた以上我慢しなくちゃな。 それから俺は公園に行って千代紙を半分に切って短冊を作り、それにこいつの願い事を書き込んだ。 『どうか雲になって何時までも空に浮かんでられます様に』
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