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「アベル……?」
自分を抱きすくめる腕が力を失い、どう、と倒れる音が聞こえた。
「どう…して……!私は………っ」
貴方に狩られるべき、ヴァンパイアなのに。
あれぐらいでは死ねない、ヴァンパイアなのに!
「兄貴もやっただろ…同じこと。………これでおあいこ、だ…」
二年前、自分をかばってヴァンパイアに咬まれ、姿を消した兄をアベルは見つめた。俺、根に持つタイプなんだよな、と軽口さえたたく。
「それに、どうせ……、もう、一緒には、いれねーんだろ……」
同じ調子で吐かれる、諦めの言葉。カイルの胸に痛みが走る。
拒絶したのはカイルだった。いつか弟を食糧として見てしまうのではないかと思うと、怖かったのだ。
「………だ……」
アベルの目から光が失われていく。致命傷は明らかだった。
「……嫌、だ………」
拒絶したのは、生きて、幸せになって欲しかったから。
本当は一緒に生きたかった。
ずっと、ずっと、一緒に……………!
「ごめんなさい、アベル」
これ以上、耐えることはできなかった。
朱に染まった体を抱きしめ、首筋に牙をつきたてる。
己も朱に濡れながら、カイルは溢れた血を飲み下した。視界が歪み、痛い色彩が溶けていく。
「っ、ごめんなさい……でも、」
貴方を失うくらいなら、貴方に憎まれたほうがいい。
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