紅茶

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その日、この邸に新しい住人が増えました。前回同様、月斗様と星斗様が拾ってきたのです。 その子供は身体中傷だらけで、一目見れば何があったか予想がつきます。しかし、涙1つ見せない気丈な子供でした。 『風斗』と名付けられたその子は、月斗様と星斗様それに水斗様、子供同士は直ぐに打ち解けましたが、大人が近付くと一瞬表情がこわばるのです。虐待されて過ごした日々が影響しているのでしょう。 そのため私には、まだ風斗様の笑顔を向けられたことがなかったのです。 風斗様が邸に来てから10日。やっとベットを出ても良い許可が医者から降りました。 4人揃っての初めてのティータイムには鍋で茶葉と牛乳を煮出して作るセイロン風ミルクティーを。コクとなめらかな口当たりで、子供でも美味しく味わえると思いセレクトしたのですが… 私は給仕をし終えても、その部屋から出ることは出来ませんでした。隅に控え風斗様の様子を伺ってしまいました。 風斗様はおそるおそるカップを持ち、そっと口づけます。コクッと一口飲んで、驚きの表情になりました。もう一口飲んでからカップをソーサーに戻しました。 それから私の方を向き 「とても美味しいです」 と微笑みながら言って下さいました。 私は、その時のぎこちないながらも精一杯の笑顔を決して忘れる事はないでしょう。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 「サミュエル。今日は暑いですし、さっぱりとオレンジティーをアイスにしませんか?」 「ええ。それはよろしいですね」 あれから11年。成長した風斗様は素敵な笑顔を身に付けられ、今日も紅茶を楽しんでおられます。 END
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