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春である。
クラスは繰り上がりのため、期待や不安はあまり感じないのだが、
「キシャアアッ」
やはり舞い散る桜や、ウチの塀のあたりで盛っている野良猫どもを見ていると、知らず着替えの手も速まるというものだ。
・・・字面をみるとバケモノのような声だが、れっきとした猫のかわいい鳴き声である。
この春の陽気につられて、通学路の商店街でタイヤキを盗んだ女の子とぶつかるくらいのハプニングは起こってもおかしくはないはずだ。
それが期待じゃないなら何なの?という話だが、何だか予感に近い気がする。
来るべき時に備え俺が商店街辺りのお菓子屋などをピックアップしていると、
「月ーっ」
と外から幼なじみに呼ばれた。
ちなみに今の名前はそのままの読みで相違ない。
俺の名前は月春。
先程の呼び名は短縮型だ。
別に小癪なカタカナ読みはしないぞ。
そのままだ、そのまま。
「遅い」
「わり、行くか」
短く交わして歩き出す。
・・・会話がないな。
やはりこいつも俺のように新年度に期待云々があるのかもしれん。
いつもはあーだこーだとうるさいこいつは、葵という親ぐるみの付き合いの幼なじみである。
家も隣で、双方両親が家にいないことが多いため、互いに合い鍵を持つ程信頼は深い。
若い二人がこんなギャルゲーみたいな環境にいたら間違いが起こるって?
「月さぁ、」
何のことかな。
言っておくが、
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