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小学一年生。
私の母は、酒癖の悪い父に別れを告げた。
正直、この頃の事は、あまりよく覚えていない。
別れるに至った過程で覚えている事は、幼稚園に通っていた頃の私を、母が泣きながら首を絞めた事だけ。
普通の一軒家に住み、父がいて、兄が二人居て。
幸せだったのか、それさえも曖昧だ。
人は嫌な事はいつまでも覚えているらしいから、幸せだったのかも知れない。
そぉ言えば、近所の幼なじみの男の子を兄の自転車の後ろに乗せて、家の裏の長い坂道で曲がり切れずに壁に突っ込んで、病院に担ぎ込まれたのもこの頃だ。
裏の大きな家のおじさんが、病院へ向かってくれてる車の中で、母が私の割れた額をタオルで押さえながら、青い顔で泣いていたのを覚えている。
後ろに乗ってた子は飛び降りて無事だったとか、どぉでもいい事も覚えているのに、幸せだったか思い出せないのが残念だ。
そぉだ。
この頃母は、夜に飲み屋で働いていたらしい。
私は覚えていないが、今の父と母が出会った場所が、スナックだったと、父が言っていたから。
だって私は、この頃既に、父に会った事があったのだ。
シルバーの車に乗って、葡萄狩りに連れていってくれたオジサン。
兄二人と、私と、母を、家の近くの公園まで迎えに来た。
それだけは覚えてる。
父とは何処かに出掛けた思い出の一つもない。
思い浮かぶ思い出は、全て今の父とだった。
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