私と母

7/26
前へ
/26ページ
次へ
そんな私の元に母からの電話が来たのは、その日の夜だった。 皮肉な物で、母が帰って来たのは、私が父の元に帰ったその日だった。 私は母が家に帰った事は聞かされたが、家に戻る事はなかった。 後に聞かされた話、母は私を迎えに行くと言ったらしいが、父はそれを拒んだ様だ。 何故あの時、父と母は死ぬ事を選んだのか。 正確には、あの出来事がそぉ云う事だったと知ったのは、もっと後に母が話してくれた時だったが。 今の父が母と一緒になるため、家やお金、仕事で築いた地位も捨て、一枚のスーツだけを持って離婚した事を聞いた。 今思えば、家は極端に貧乏だったのだ。 家は平屋で古く、水洗じゃないトイレだった。 小麦粉をこねて作った具が、唯一の食事だった日も幾度とあった。 しかし私が貧乏な事に気付かなかったのは、母が私に、ひもじい思いをさせなかったからだろう。 就職先の決まらない父の代わりに、スーパーの中にある小さな食事所で働いていた母。 小さな妹をおぶって、私はよく母の元へ行った。 お昼過ぎにおいでと言われていたので、私はいつも決まった時間に行った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加