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壱
あの時のことはあまり覚えていない。
覚えているのはものすごい衝撃とそしてすぐ訪れた体中を襲う激痛…声を出したくてもでるのはかすれ言葉にならない。 (あれ…もしかして。これってかなりヤバい?)と突然視界が深紅に染まる。
(やっぱ血かな…あ…明日の特売~!?待ちに待った卵パック80円が~!?)
それが凜が考えた最後のことだった。
ふと、誰かに呼ばれたような気がして意識を浮上させた。
(あれ…俺どうしたんだっけか?確かなんかにぶつかって…)
凜の意識が少しずつはっきりしてくる。凜はゆっくりと瞳をあけ辺りを見まわした。痛みはないものの、そこは見覚えのないベッドが横たわるだけの質素な部屋。窓もなく音一つしない。
(俺外にいたよな?しかもかなりヤバめな感じで。)
凜はふと衣服を触ってみた。
「っ!?ってこれ…」
凜はシーツを勢いよく剥ぎ取った。とそこには、見るも無惨なボロボロのお気に入りのブルーのカッターシャツだったものがおざなりに凜の体を包んでいた。
(あぁ~あ~…これ閉店直前セールで700円の半額だったのにぃ~!)ジーンズもズタズタに引き裂かれている。
コンッコンッ…
と控えめなノックの音そして一人の男性がはいってくる。髪は黒に近い藍色。サラサラと音がしそうな細く長い髪を後ろで一つで結んでいる。
(絶対性別間違ってるって…)
見事な黄金比率で作られた顔。瞳は目があえば吸い込まれそうな神秘的なオッドアイ。
自然と目がいってしまう。その人の薄いピンクの唇がひらきー、
「ようこそネストに…えぇとタチバナカナデさん?」
耳にすんなり馴染む落ち着いたテノール。顔だけじゃなく声までいいなんてすこぶる何かが間違っているような気がする。「あの~突然ですが、カナデさん、あなた死んでますよ?」
「……へっ⁉」
情けないことにそれが凜が発した第一声だった。
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