蝶々の効果

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 彼女はそんな不思議な表情を浮かべたまま、ゆっくりと一歩一歩俺に近づいてくる。 「ねぇ、カズ君‥。」 不安げな声が、小さく開いた彼女の口から零れてきた。 「どうした?優子‥。」内心、もしかしたら生理来ちゃった的な発言がくるのではないかとヒヤヒヤするものがあった。 「カズ君ってさ、正直女に人気あるよね。私もこの一年間で何回もカズ君と付き合ってるっのを理由に嫌われたり、知らない女に『ムカつく』って陰口たたかれたりしたんだ。」  不意な告白に、素直に「えっ‥?」としか俺は言えなかった。優子は続けた。 「真相なんて解らない、知りもしたくないけど、カズ君が浮気しているって話とかも聞いた事あるの。」 なんなんだそれは、愛の妄想劇場でもこんな話の流れを聞いたことないぞ。 「浮気なんかする訳ないじゃないか。俺には、俺には優子しかいないよ」『俺には』を二回言ってみた所辺りが胡散臭いが、だって本当の事だ。臆する事はない。 「私だって信じてるよ、私だってそうだって信じたいよ、じゃあさ‥聞きたい事あるんだけど、正直に言ってくれる?」  濡れた髪にバスタオル一枚の優子を目の前にして、俺の息子は何の反応も見せはしない。『人間の男性は約十五分に一度欲情するという、非常にエロエロな生物である』という話を何かで見たことがあるが、今がその瞬間でないせいか、先程まで自己主張していたために疲れているせいか、はたまた今の不思議な空気のせいなのかは誰にも解らない。
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