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久実ちゃんという女性がおりました。
いつも地味な割烹着を身に着け、和田アキ子と同じ髪型、化粧ひとつせずにただあちらこちらを散歩している方です。
いつ拝見しても、その顔は変わらずに能面のごとく、けれども風貌は入門したての力士を彷彿とさせます。
朝も、昼も、夕も、必ずどこかを歩いているのでございます。
俗にいう【自閉症】の方だと母に教わりましたが、自閉症の意味を理解するには、教わるのが早急でございました。
苛めていたわけではございません。
からかうことも致してはおりません。
ただひたすらに、久実ちゃんの後を着いて歩く。何故だか子供の頃に流行った、一種の遊びでございました。
何度も同じ道を往来する。
同じ場所で立ち止まり、じいっと何かを凝視する。
まるでそれは、うら若き糞餓鬼には、異世界への入口を探しているように見えたのでございます。
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