そう、待とう。

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そう、私は待つしかないのだ。 この異国の地、日本で。 発端は2年前。私は車に引かれそうになっている子供を助けた。 らしい。 目を覚ました時には事故の衝撃で記憶がなくなってしまっていたのだ。 持ち物からわかったのは旅行中らしいということだけ、携帯電話も持たない主義の人間だったらしく、また身元のわかる物もなかった。 そのため自分が誰なのかもわからない。 家族が居たとしても、連絡の手段もない。 故に、待つしかない。 誰かが迎えに来てくれるか、記憶が戻るまで。 私のような者は法律で保護が定められているらしく、仕事と住居は与えてくれたので、生活は何とかやっていけた。 この地に何度赴いただろう。唯一記憶の手がかりである事故現場。交通量の多い交差点。 何度来てみても何も分からない。変わらない。 考えながら横断歩道を歩いていたせいか、いや、それでなくとも気付けなかっただろう。 信号無視のトラックに。
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