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時は平安。
どちらを向いても桜が咲き乱れる春の都を訪れたものがあった。
「見てください、桜が満開でございます。笙郭(ショウカク)様」
嬉しそうに声をあげたのは、笙郭の従者、荘司(ソウジ)である。
笙郭は僧であり、修行の道すがら、とある神社に足を踏み入れた。
不思議と、その境内の桜だけ一際美しく見えたのである。
「どうやら桜の盛りに来たようだな。いやしかし、素晴らしい眺めだ」
二人共々桜を見上げつつ歩いていくと、一本の立派な桜の木の下に、ひとりの少年の姿があった。
端正な顔立ちに、流れるような長髪をひとつに束ね、春風に揺らすその少年は、箒(ホウキ)を携えて散りゆく桜を集めていた。
歩いてきた二人に気付くと、少年は桜の大木を見上げた。
「花盛りでございます。鎮守へ春の手向けでございましょう」
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