山道の親子

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あるカップルが車で山道を走っていたときのことでした。すでに夕日が沈みかけ 、あたりは薄暗くなっていました。二人は何も話さず静かに座りながら、人気の ない山道を急いでいました。カーブを曲がろうとしたとき、突然車の目の前に一 人の小さな女の子が立ちはだかり、車を止めようとしました。危うく女の子をひ きかけた彼氏は、びっくりして、間一髪で女の子をよけたものの、そのまま通り 過ぎてしましました。あまりに突然の事だったので、二人は緊張したまま車を止 めることが出来ず、山道を数百メートル下り続けました。ようやく我に返り、車 を止めて、Uターンして戻ってみようと言うことになった時、突然今度は道の向こ うから一人の年輩の男が走ってきました。男は、車の窓の所まで来ると、息を切 らしながら二人にたずねてきました。「私の娘がここを通りませんでしたか?山 道で、迷子になってしまったんです」 二人はすぐに、さっきの女の子の事だと気づき、 その男に女の子の居た場所を教えました。 男は、「そうですか!ありがとうございます」 と言って、また山道を登っていこうとしました。 さっきの場所まではかなりの距離があったので 二人が「そこまで車で送りましょうか」と言うと、 男は少しあわてて「いや、いいんです。一人でいけますから」と言い残し、走っ ていってしまいました。 二人は少し気にはなりましたが、そのまま車を走らせてアパートに帰り着きまし た。一週間後、アパートの部屋で二人が何気なくテレビを付けると、ちょうどニ ュースの時間で、アナウンサーが、女児誘拐殺人事件の犯人が捕まったというニ ュースを読み上げていました。次に犯人の顔写真が映ったとき、二人は唖然とし ました。なんと、そこに映っていたのは山道で必死に娘を捜していたあの男だっ たのです。あの男は、一人の女の子をさらって山道をさまよっている途中に逃げ られてしまい、女の子の行方を追っていたのでした。 そして二人が見たあの女の子こそ、誘拐魔の手から逃れようともがく被害者の少女の姿だったのです。
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