すれ違う想い。

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「ここへきて七年もたつのに、あなたは口を閉ざしたまま。一言も……話してはくれないの?」 そういうと、人魚の娘は眉を八の字に潜めた。 「おふくろ」 そういって現れたのは、オーナーの息子、ラルドだった。 赤髪に、片耳には赤いピアス。 仕事帰りらしい。ずいぶんと疲れた様子だ。 成人してすぐに彼は、陸の警護、防衛を司る国の保安部隊に入隊した。彼の軍服のような制服が所属の証だ。 ラルドは片手でネクタイをゆるめながら不機嫌そうな顔をしてやってきた。 「ああ、ラルド…」 オーナーが彼に言う。 「また半魚人に話しかけてんの?」 「半魚人だなんて…。この子にもきっと名前があるわ。いい加減その呼び方やめなさい。あんたをそんな失礼な人間に育てた覚えはありませんよ」 オーナーは、ラルドの頬をつねった。ラルドはすぐにその手を掴んで、自分の頬から引き離す。 「俺はこいつが嫌いなんだ。あのすました顔といい、俺を見るあの目だって…何もかも気に食わない……。だから半魚人だって何だっていいんだよ。お似合いの名前だろ?見たまんまだし」 そう言いながら裏の冷蔵庫から飲み物を取り出し、がぶ飲みする。 「俺はあんなもん、公開するべきじゃないと思うが…。店なんか閉めればいい。こいつの餌代とか、維持費とか俺が持つからさ……おふくろも休めよ」 付け足して言う。母に何気なく提案しているようだ。言い終わるとまた、気恥ずかしさを紛らわすように飲み物を口に流し込んだ。 ラルドは、人魚の彼女を人目にさらしたくないようだ。彼は素直じゃないから、こんな風な言い方しかできない。 オーナーは、そんな彼をみて、薄くほほえんだ。 「あーッもうっ」 ラルドは、その笑みに耐えきれなくなって苛立ちをぶつける。 「はいはい、あんたが機嫌悪そうだから私は寝ます寝ます。苛々したあんたは手に負えませんからね」 「あっそ」 素っ気ない返事をする。 「おやすみなさい」 そういうとオーナーは店の奥の方へ入っていってしまった。
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