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一人残ったラルドは一服すると、水槽の裏部屋に行き、着替えていた。
顔全体を覆う水中マスクをかぶると、水槽の階段を一段一段、だるそうに上る。
水槽の上部に着くと、水に足をゆっくり着け、次に体ごと浸かっていった。体が慣れたところで、頭も水の中へと沈める。
ラルドを待ちわびていたように彼女は彼を迎え微笑みかけた。
ラルドは水に身を任せ、静かに水槽の底に沈んでいく。水底に足が着くと壁沿いに、より掛かるように座り、彼女を見つめた。
人魚の彼女は、ラルドの顔をのぞき込むようにやってくる。
「お前、いつ見ても本当に不細工だよな」
その顔を見て、ボソッと言った。
彼女はむっとした表情になり、次いで口をぎゅっと紡いで息を頬にためる。頬がふっくらとして、輪郭がぷくりと可愛らしい。
「ブスはいいよな。悩みがなくて。俺なんて悩みだらけだ」
すると、尾びれで彼の頭を叩く。どうやら彼女は怒っているようだ。彼は彼女のそんな仕草を見て、楽しんでいる。
「半魚人…」
彼がそういうと、彼女は首を傾げた。
「俺はどうしたらいい?」
彼の表情は暗く、彼女を見つめる瞳も先ほどとは打って変わって切なげである。彼女は尚も首を傾げただけで何も言わない。
「俺、婚約者を用意された…」
その言葉に彼女の表情も曇った。
「でも…俺はソイツと結婚するなんて御免だ……。俺には…そばにいてほしいと思ってるやつが他にいる。俺はどうしたらいい?お前はどう思う?」
ラルドは、彼女の目をじっと見つめながら言った。
返事を期待などしていない。返ってこないとわかっている。だが、ただ彼女に問いたかったのだ。
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